あらすじ
断罪の日、空は異常に澄んでいた。
雲ひとつない青の下で、侯爵令嬢 ロウェナ・アッシュクロフトは、王太子アルアリック・ペンドレイクの婚約者として、国中の貴族が会する舞踏会の会場の真ん中で毅然として立っていた。目の前に立つはこの国で最も尊い存在とこの国で最も信仰される存在、国王陛下と聖女である。
「よって、王太子との婚約は破棄され、ロウェナ・アッシュクロフトは、全ての地位と名誉を剥奪される――」
真と静まり返った会場に響く宣告の声。
だが、ロウェナの胸には、驚きも怒りもない。
むしろ静かに思った。
(ようやく、世界を見に行けますわ)
舞踏会の宣告から一昼夜、国外追放を受け家からも勘当され、放り出された彼女は、父親の最後の情けとして黒衣のローブに包まれた人物を、行先案内人として紹介された。
物腰が丁寧だった。だが頭は、カブ。
「……やれやれ」
異形頭は肩をすくめ、皮肉めいた声で言った。
「君、これから暇になるだろ?」
ロウェナは微笑む。
「ええ。ですから――」
言いかけて、少し間を置く。
「旅に出たいの。ついてきてくださる?」
カブ頭、キアラン・ターンルートは目を細める。
長い沈黙のあと、ぽつりと呟いた。
「ふむ。世界の秩序を乱す者にしては、面白い顔だ」
その日から二人の旅は始まった。
とある街で起こる群像劇、海を越え山を越え、教会の在り方、貧富の格差を目の当たりにし、風の国アイオリスで学び、ロウェナはすべてを、目に、耳に、心に記録した。
やがて、彼女の記事は王国を揺らし、断罪した者たちは足元から世界が崩れていく。
これは悪役令嬢が、異形頭に溺愛されながら自由と知を手に入れる物語。