あらすじ
書けなくなったライターと、認められなかった職人。
雪深い古都の片隅で、傷を抱えた二つの魂が出会った。
一ノ瀬湊は、消費されるだけの言葉を書く日々に疲れ果て、亡き祖母の家がある古都へと逃げ出してくる。あてもなく彷徨う中で引き寄せられたのは、甘い小豆の香りが漂う老舗和菓子店『月光堂』。
店主の高遠蓮は、武道家のような強面で、客商売には向かない無愛想な男だった。しかし、彼がその大きな手で生み出す和菓子は、驚くほど繊細で、優しい味がした。
「……邪魔です。帰ってください」
最初は拒絶していた蓮だが、湊の飾らない言葉と行動力に、少しずつ閉ざしていた心を開いていく。
亡き父との確執により封印された蔵。経営難による店の危機。そして、一月十一日の鏡開き。
カチコチに硬くなった鏡餅を木槌で割るように、二人は互いの孤独な殻を打ち砕いていく。
極上の善哉が冷えた体を温めるように、ゆっくりと染み渡る大人の純愛物語。
【登場人物紹介】
◆一ノ瀬 湊(いちのせ みなと)
26歳。フリーランスのライター兼編集者。都会の出版社での激務に心をすり減らし、スランプに陥っている。逃げるように亡き祖母の家がある地方の古都へやってきた。甘いものが大好きで、特に餡子には目がない。童顔で人当たりは良いが、内心では強い孤独と将来への不安を抱えている。
◆高遠 蓮(たかとお れん)
28歳。老舗和菓子店『月光堂(げっこうどう)』の若き店主であり職人。身長が高く、鍛え上げられた体躯と鋭い眼光のため、初対面の人間には怖がられることが多い。極度の口下手で無愛想だが、作る和菓子は繊細で優しく、評判が良い。実は甘党で、湊の何気ない言葉に心を動かされていく。