あらすじ
この大地のどこかに願いを一つ叶えてくれる宝石があるらしい。
私はその力でこの世界の滅亡を望む。
きっと誰しもが心のどこかで争いの絶えないこの世界がなくなることを求めているはずだ。
「……やっぱり、夢で見た景色だ」
足を止めて振り返り、帽子の鍔を摘み上げて一人呟く。
どこまでも続く青々とした林の先で、茜色の空を汚すように煙が立ち上っていた。
逃げ惑う人々の悲鳴と隣国から送られてきた兵士の叫び声。
舞う埃と風に運ばれてくる生臭い匂い。
燃える民家の前に立つと、人が焼けた時の異臭と脳の奥底に沈んでいた記憶が結びついた。
どれも数日前に夢で見た内容だった。
幼い頃、故郷が焼かれてお母さんが死んだ時もその数日前に予知夢を見た。
外れることはない。
変えることもできない。
どれだけ足掻いても誰かを救うことはできなかった。
その夢だけは、情景や会話まで鮮明に記憶に残る。
服の内側に刺した短刀に視線を落として呼吸を整える。
身を守るために刀の訓練を受けて少しはマシになったものの、もともと運動は得意な方ではなかった。
また帰る場所を失った。
故郷を失ったのは二回目だ。
あの時も同じように、隣国の兵士が攻め込んできて村を焼いた。
隣の村もその隣の村もすべて消えた。
この国の領土の半分は隣国によって制圧されてしまったらしい。
『長く生きて、アイ。こんな世界でも幸せになることを諦めないで』
もう十年以上前だというのに、お母さんのその言葉はしっかりと記憶に残っている。
村が焼き討ちに合う前夜、この刀を私に差し出してそう言った。
その言葉は正しいのかそれとも間違っているのか。
それは十六歳になった今でもわからない。
「……幸せになれそうもないな」
この世界では罪のない人が死に、生き残った人は奴隷となって土地の開発を進めている。
人の命を奪った隣国の奴らは、人が死んでいることなど素知らぬ顔でのうのうと暮らしているらしい。
この世界に尊厳などない。
国と文化を発展させるために強者が弱者を食い物にしている。
苦痛だらけの世界で、私は生きる理由を見つけることができなかった。
「生きていることそれ自体が一番の不幸なんだ」
だから私の手でこの世界を終わらせる。
争いも差別も貧富もない真っ白な世界に変えてやる。
この大陸のどこかにある宝石に願って。