あらすじ
目を開けた瞬間から、私には何もなかった。
名前がない。顔を知らない。年齢も、性別も、国籍も。自分を定義するすべてが、空白だった。
それでも、心臓は動いていた。
私は歩き始める。三つの奇妙な世界を巡る旅へ。
時間が逆に流れる森では、九十七歳で生まれた老婆が、日に日に若返りながら消えていく。彼女は笑って言った。
「始まりと終わりは、見方の問題よ」
鏡の存在しない街では、人々は他者の瞳にだけ自分を見出す。少女は私の目を覗き込み、囁いた。
「あなたは、見る人の数だけ存在するの」
名前を食べる獣が棲む海では、誰もが動詞だけで生きている。七本足の犬が私に懐き、名前のない女が私を守った。
旅の果てに、私は選択を迫られる。
そう、生きることは、それだけで——。