あらすじ

京都を舞台に描かれる、触れない距離のまま深まっていく恋の物語。 純一は、かつて恋人・由宇紀と別れの儀式として訪れた京都の寺・青龍院を、今度は怜子とともに再訪する。苔むす庭、写経堂に満ちる墨の香、異質なのに不思議と溶け込むパイナップルの木――京都の静かな時間の中で、二人は言葉にしすぎない想いを育てていく。 鴨川の夕焼けの下、怜子は「落花流水」という言葉を差し出す。それは相思相愛を意味すると同時に、別れや流転をも含む言葉だった。怜子はそれを二人の“合言葉”にしようと言い、たとえ離れても想いは還ると誓う。純一はその重さを受け止め、「覚悟」を問われる。 やがて怜子の心は、京都に沈殿した“置き去りにされた想い”に引き寄せられ、静かに揺らぎ始める。自分が自分でなくなる恐れを抱いた怜子は、純一に告げぬまま、郊外の尼寺・高妃寺に身を寄せる。尼僧・高姫尼のもとで、怜子は祈りと沈黙の中に身を置き、触れられない苦しさと、それでも消えない恋を抱え直していく。 「守るとは、そばにいることだけではない」 その言葉を胸に、怜子は再び純一のもとへ戻る決意をする。 再会した二人は、なお触れない距離を選びながらも、確かに同じ方向を向いて歩き始める。青龍院には、怜子がかつて残した手紙と「落花流水」と刻まれた石碑があり、時間が折り重なる京都の中で、二人の想いが過去・現在・未来を結んでいたことが明かされる。 由宇紀との別れで「振り返らない」ことを覚えた純一は、今度は“続けるために振り返らない”という新しい作法を選ぶ。怜子と純一は、常に同じ場所にいるわけではない。それでも合言葉を交わせば、また還ってこられる関係として日常を生きていく。 鴨川は今日も流れ、花は落ち、やがて流れに還る。 触れないまま手を取り合うように、二人は京都の暮らしの中で、静かに恋を続けていく。

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小説を読もう2025/12/31
  • 現在の作品『落花流水の誓い』