あらすじ
あの日から俺の人生は狂いはじめた。
あの日、川は何かが違った。
2人の少女が溺れた。
俺は無我夢中で川に飛び込んだ。
二人の少女が近づいてくる。二人は必死にこちらに手を伸ばしていた。一人は水に沈みかけ、かろうじて顔を上げて息をしようともがいていた。
(どっちも助けなきゃ・・・)
頭の中ではそう叫んでいた。だが現実はあまりにも冷たく、流れはあまりにも速かった。二人を同時に支えられる力はなかった。
震える手を伸ばし、近くにいた少女の腕を掴んだ。その瞬間、もう一人の少女の顔が水面から半分だけ出て、必死な瞳でこちらを見た。
(助けて)
言葉にならない声が心に刺さった。手を伸ばした。だが足元の石が崩れ、流れが少女を遠ざけた。わずか数歩の距離が永遠に遠く感じた。少女の顔が水面に消えかかる。
声にならない叫びが川の音に紛れて聞こえた気がした。だが腕は届かなかった。少女のお団子結びの髪の毛までどんどん遠ざかって見えなくなった。水の冷たさと流れの重さで徐々に息が詰まりそうになった。
ある夜、拓真は寝室の隅に立つ自分の姿を夢で見た。自分とは似通った男。歪んだ笑みを浮かべているもう一人の自分。身体は透けているようで真っ白だった。
拓真は、その寝室の隅に立つもう一人の自分の「白」が忘れられずにいた。
クリスマスも近づいてきた日の仕事帰り、白い明かりが点(つ)いている店があった。
時刻は深夜0時を回ると言うのに、まだ営業しているのかと不思議な気持ちで店を覗き込んだ。
高齢な男性の横に真っ白な顔の洋風人形が飾ってあった。
拓真にとってその白が寝室の隅に立つもう一人の自分の「白」色だった。
引き寄せられるように店に入った。
「いらっしゃい。これはビスクドールという人形。きれいでしょ」
「お兄さんの家にこの子は行きたがっているよ」
その後……
拓真の肌は異常なまでに白く、人間ではなく石膏の彫刻のようだった。
拓真はすでに息をしていなかった。
医師の診断によると、薬の過剰摂取による臓器不全。
全身が白くなったが、それは「生きた白」ではなく「死の白」だった。
拓真が目指した「完全な白」は、こうして実現された。
あのビスクドールはどこかの家の隅で、より白くなって生き続けているのだろう。
(さぁ、あなたも白くなりなさい。 私のように・・・・・・)