あらすじ

冬の夜、港町ラティス港では「冬花火」が上がる。その火種になるのは、断崖の果樹園で育つ「うれた果実」の粉――町の暮らしは、その甘い香りと一緒に回っている。  仕立て屋ホルトンは、襷の縫い目を直しながら、荷運びの習わしの綻びも、言い出せない気持ちの綻びも、針先でそっと留めていく。屋根の上で同じ空を見上げても、指先一つ分の距離が縮まらない夜がある。  工房のオーバメヤンは、抱きしめようとして毎回止められ、止められるたびに笑って手袋を差し出す。買付人マテュイディの帳面は冷たく、段取り役ケレックは町中の足音を揃え、市場の顔役パパタステロープスは声で人の輪を作り、速達のバスが綻びを走って繋ぐ。  火種が足りない冬、襷が切れる冬、それでも花火を上げたい冬。縫い目の向こうで守られてきたものを、ホルトンは最後に自分の手で選び直す。

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カクヨム
カクヨム2025/12/29
  • 現在の作品冬花火と縫い目の仕立て屋ホルトン