あらすじ
※本作にはスケートボードのダウンヒル競技に由来する用語が登場します。
姿勢や動きは感覚として読み進められる構成です。
島にそびえる峠〈アッシュフォール・ヒル〉は、走る者を選ぶ場所だ。
風と雨と速度が、容赦なく感覚を削り取り、残るのは進むか、立ち止まるか、その選択だけ。
一本のスケートボードと共にその斜面へ身を置くリサは、島に残されたある“走りの記憶”と向き合うことになる。
それは名前として語られ、しかし言葉では説明されないものだった。
走るほどに、その正体のない気配が、感覚にまとわりついてくる。
恐怖は消えない。速度が増すほど、むしろ鮮明になる。
それでも彼女は走る。
勝つためでも、過去を断ち切るためでもない。
ただ、立ち止まらずに進んでいくために。
嵐の中、静寂を求めるように研ぎ澄まされていく感覚。
これは、恐怖を克服する物語ではない。
恐怖と共に走ることを選んだ者たちの、灰降る峠の物語だ。