あらすじ
雪は降っていなかった。
それにもかかわらず、世界は常に雪の気配を返し続けていた。
声を発せば、言葉は意味になる前に白く反射し、
沈黙を置けば、その沈黙すら雪として戻ってくる。
呼びかけと応答の区別は失われ、
世界は一方的に「反響」だけを生成する装置となっていた。
街には音がなく、出来事も起こらない。
それでも、人々の内部では、かつての言葉や感情が
雪の粒のように砕け、堆積していく。
語り手は、自分が何を問い、
何を失ったのかを思い出そうとする。
しかし返ってくるのは、答えではなく、
問いの形をした雪の反射だけだった。
やがて語り手は理解する。
雪は世界に何かを与えているのではない。
呼びかける主体そのものを消去し、
「応答だけが存在する状態」を完成させているのだと。
これは、雪が降らない世界で起こる、
声なき反響の記録である。