あらすじ
世界は、正しさの衝突によって壊れかけていた。
戦争、分断、憎しみ、そして「自分は間違っていない」という確信。
誰もが正義を名乗りながら、誰もが他者の声を聞こうとしない時代。
少年・ユウは、失踪した父の研究室跡で、不思議な箱を見つける。
それは願いを叶える装置ではなかった。
箱に入れた言葉は現実を書き換えず、代わりに世界へ問いとして返される。
ユウが投げた問いは、
「もしも、世界中の人が、自分の言葉が相手にどう届くかを知っていたら」。
翌日から、世界は静かに変調をきたす。
兵士は引き金を引く直前に、相手の恐怖を感じ取る。
人々は怒りの言葉を送信する前に、その先にある未来の表情を一瞬だけ見る。
嘘は声に震えとなって現れ、違和感として共有されていく。
だが争いは終わらない。
問いを知っても、なお憎しみを選ぶ者はいる。
箱の影響を「洗脳」と恐れ、排除しようとする国家や組織も現れる。
ユウ自身もまた、世界を変えてしまった責任と向き合うことになる。
物語は、兵士、政治家、子ども、市井の人々の視点を通して進み、
平和とは強制できるものではなく、選び続ける行為そのものであることを浮かび上がらせていく。
やがて箱は、その役目を終える。
ユウは最後の選択を下し、箱を世界から手放す。
問いを失った世界で、人は再び同じ過ちを繰り返すのか。
それとも――知ってしまったからこそ、言葉を選び続けるのか。
これは、願いを叶えない道具が生んだ、
沈黙と選択の物語である。