あらすじ
焼きすぎたホットケーキが、言えなかった言葉になる。
ホットケーキは、混ぜすぎてもだめで、混ぜなさすぎてもだめだと、彼女は言っていた。
最後にそれを焼いたのは、いつだっただろう。
フライパンの前に立つ「僕」は、もう隣にいない彼女の声を、勝手に思い出しているだけだ。
ただ焼くだけの話なのに、どうしてこんなに手が止まるのか。
どうして、ひっくり返す瞬間が、こんなにも怖いのか。
これは、大きな事件も奇跡も起きない話。
でも、声に出して読んだとき、きっと誰かの胸に引っかかる。
ホットケーキ一枚分の、取り返しのつかない時間の話。