あらすじ
丘の上の大樹の下で、青年は昨日と同じ本を広げていた。
春、無邪気な瞳で「大好き」と笑った少女。
夏、陽炎の中で眩しいほどにしなやかな姿を見せた淑女。
秋、誰かの妻となり、二度と戻らぬ坂道を下っていった愛しい人。
季節は巡り、景色は鮮やかに色を変えていく。
けれど、青年だけは変わらない。
彼にとっての「昨日」は、人間にとっての「一生」。彼が数ページ読み進める間に、愛した少女たちは、彼を追い越して遥か遠くへ去ってしまう。
「ずっと、私を見守っていてね」
かつて交わした残酷な約束。
止まった時間を生きる彼は、見送るたびに積もる「後悔」に、心を凍てつかせていく。
降り積もる雪がすべてを白く染める冬。
石碑の前に佇む彼の前に、かつての「若草色の瞳」を持つ少女が再び現れる。彼女が告げたのは、幾星霜を超えて受け継がれてきた、ある一族の想いだった。
千年の冬を越え、凍てついた孤独が溶け出すとき。青年は初めて、あの日言えなかった言葉を口にする。
これは、四季を巡るさよならの果てに、止まった時を歩き出すための物語。