あらすじ
現代日本。
かつて異世界に召喚され、魔王を討伐した元勇者・佐藤誠(34)は、現在は地方都市の市役所職員として静かに暮らしている。
――ただひとつの例外を除いて。
彼の隣にいるのは、異世界で「魔王の娘」と呼ばれていた五歳の少女・リリィ。
強大すぎる暗黒魔力を内に秘め、感情が昂ると街一区画を焦土にしかねない危険因子だ。
だが、日本には魔王も魔法も存在しない。
あるのは戸籍、住民票、国籍法、児童福祉法、そして無数の「前例なし」。
佐藤は彼女を隠すことを選ばなかった。
選んだのは――法的に、日本人にすること。
出生届が存在しない少女。
国籍不明、親権不明、年齢は自己申告。
魔力が漏れると近所の犬が吠え、電子機器が誤作動を起こす日常。
異形が当たり前として社会に溶け込んでいく世界で、
最も静かで、最も困難な戦いが始まる。
舞台は市役所の窓口と、六畳一間のアパート。
剣の代わりに書類を手に、元勇者は今日もハンコを求めて歩き回る。
これは、魔王の娘が「日本人」になるまでの、
108の手続きの物語。