あらすじ
※バレあり
奈良時代末期、かつての名門・大伴氏に生まれた継人は、没落した家門を再興すべく、大学寮でひたすらに「文字」の正解を追い求めた。
彼は、自らの魂に空いた虚無を完璧な知識で埋め尽くすことで、揺るぎない自己を確立しようと試みる。
執念の果てに念願の遣唐使に選ばれるが、出発前夜、彼は二人の怪物――空海と最澄に遭遇する。
空海の放つ野生の異能と、最澄の宿す静謐な劫火。彼らが体現する「生きた真理」を前に、継人が二十年かけて築き上げた文字の楼閣は無残にも粉砕される。
自らの拠り所を失い、文字の牢獄に閉じ込められたまま海を渡る継人。
逃げ場のない船内で、彼は天才という光に焼かれ続け、自己の存在意義を反芻する。
やがて訪れる暴風雨。砕けゆく船体の中で、文字という名の錘を抱えた秀才は、救いも絶望もなく、ただ一滴の不純物として海へと溶けていく。
歴史の頁には決して刻まれぬ、一人の男の静かなる敗北の記録。