あらすじ
石川県の実家で母の遺品整理をしていた和也は、中学時代の卒業アルバムに奇妙な「穴」を見つける。集合写真の自分の隣にいたはずの人物が、台紙ごと執拗に削り取られていたのだ。周囲の友人のことは思い出せるのに、その「穴」にいたはずの人物の記憶だけが、脳から物理的に消去されたように全く思い出せない。
異変は加速し、和也が東京のマンションに戻ると、デジタルの写真やスマートフォンの連絡先からも特定の人物たちが「ノイズ」や「空白」となって消え始めていた。恋人の沙希という存在すら世界から抹消され、恐怖に震える和也の右頬には、アルバムと同じ正体不明の「穴」が開いてしまう。
再び実家へ向かった和也は、母が遺した日記から衝撃の真実を知る。この家には代々「代用様」と呼ばれる怪異が憑いており、大切な記憶を差し出す代わりに望みを叶えていた。幼い和也が「寂しくないように」と願った結果、周囲の人間が次々と生け贄として「穴」に飲み込まれ、その存在を世界から上書きされていたのだ。母は和也を守るため、あえてアルバムを削ることで怪異を封じようとしていた。
ついに姿を現した怪異「カッくん」は、消された人々のパーツを繋ぎ合わせた異形の肉塊であり、和也のアイデンティティそのものを奪おうとする。和也は必死に抗うが、すでに他者から忘れ去られた彼は、自分という存在を繋ぎ止める術を失っていた。
意識が消失した和也に代わり、頬に穴のない「もう一人の和也」が彼の人生を乗っ取る。和也自身はアルバムの裏側の、忘れ去られた者たちが蠢く「虚無の空間」へと堕ちていった。物語は、捨てられたアルバムを拾った少年が、新たな「穴」の標的となる予兆を示して終わる。それは、この文章を読んでいる読者の頬にも、すでに「穴」が開いているかもしれないという不気味な警告と共に。