あらすじ
「彼女を救えば、都市は死ぬ」――脳内データを売買する近未来で、男が下した最後の決断。
脳内データを保存・売買することが日常となった近未来。 人々は苦痛な記憶を削除し、システムに管理された「幸福な嘘」の中で生きていた。
「記憶葬儀屋(メモリア・ブローカー)」のカイは、死者の脳から不都合なノイズを消し、遺族のために綺麗な思い出だけを残す処理を生業にしている。 だがある雨の夜、カイは高額な極秘依頼のデータの中に、あるはずのない映像を見てしまう。 それは、死んだはずの自分の妻が、都市を管理する巨大な生体コンピュータの「部品」として実験されている姿だった。
妻は死んでなどいなかった。 都市の平和とインフラを維持するため、その脳髄だけが生かされ、演算処理装置として利用されていたのだ。 カイが信じていた「妻の死」の記憶さえも、権力者によって上書きされた捏造だった。
「その女を生かしておけば、都市の平和は続く。だがシステムを止めれば、数万人が路頭に迷うぞ」
立ちはだかるのは、秩序を守る治安局長のグレイ。 カイを支えるのは、感情を持たないはずが、カイとの旅で「心」を学習していく旧式アンドロイドのミナ。
妻を永遠の地獄から解放して「尊厳ある死」を与えるには、都市の心臓を止めるしかない。 それは、英雄になることではなく、世界を敵に回す大罪人になることを意味していた。
愛する者を殺して真実を取り戻すか、見殺しにして安寧を守るか。 記憶を奪われた男と、記憶を持たない機械の少女が辿り着く、哀しくも美しい夜明け。
「さようなら、俺の真実」 痛みだけが、生きた証になる。本格ハードボイルド・サイバーパンク。