あらすじ
高校生活において、部活動選びは重要だ。 青春を謳歌するため? 全国大会を目指すため? 違う。俺、日向太陽(ひなた たいよう)の判断基準はもっと現実的で、シンプルだ。
「どうせやるなら、得(利益)がある方がいいに決まってる」
汗を流して走り込むなんてまっぴらだ。 文化部で地味な作業をするのも性に合わない。 俺が求めているのは、「楽」で「実益」がある部活。 そう、例えば――活動費で美味しいお菓子や料理が作れて、それをタダで食べられるような部活だ。
「おい太陽、お前まさか……あの噂、知らないのか?」
友人の阿蘇が青ざめた顔で止めるのも聞かず、俺は家庭科室の前まで来ていた。 噂? 『氷の女帝』がいる? それがどうした。 いくら冷徹で怖い先輩だろうと、所詮は同じ高校生だ。 こっちが愛想良くして、素直に「美味しそうです!」と持ち上げれば、案外ちょろいもんだろう。 うまくいけば、美人な先輩の手料理を独占して、あわよくば胃袋もハートも掴んで……なんて、甘い未来予想図さえ描いていた。
そう。 俺は完全に舐めていたのだ。 「タダ飯」という餌に釣られた魚が、どんな末路を辿るのかを。
鼻歌交じりに、俺は家庭科室の引き戸に手をかけた。
ガラララ……ッ。
その瞬間、俺の視界に飛び込んできたのは、薄暗い教室。 巨大な魚の死体。 そして、返り血(に見える汚れ)一つ浴びず、鈍く光る出刃包丁を握りしめた、笑顔の凍りついた女帝の姿だった。
「……よく来たわね」
その声を聞いた瞬間、俺の本能が叫んだ。 ここは食堂じゃない。処刑場だ、と。