あらすじ
奥日光の断崖に建つ「幻紅楼」は、V字型に張り出したガラス張りの館。芸術家・御堂筋伽藍が住むこの奇妙な建物は、鏡と窓が織りなす対称性で、虚実を曖昧にする設計だ。十八歳の式守奈々未は、亡き父の遺品を求めて訪れる。父はかつて伽藍の脚本家だったが、遺言に「幻紅楼の鏡像の秘密」を記していた。
館では、秘書・三笘しいな、モデル・乃羅カオル、アシスタント・飛鳥仁が出迎える。嵐の夜、館は陸の孤島と化す。翌朝、対岸のアトリエ棟で伽藍の死体が発見される。胸に刺されたペーパーナイフ、開かれた窓。だが、渡り廊下は崩落し、館は密室状態。奈々未は父の残したプロットを手がかりに推理を始める。
死体は赤い部屋で発見され、館の鏡像構造が絡むトリックが浮かぶ。カオルが殺され、飛鳥が容疑者になる中、奈々未はハーフミラーの反射を利用した「偽アトリエ」の存在に気づく。しいなが伽藍を殺し、死体を防腐処置して展示。カオルを犠牲に、鏡像で伽藍の「永遠の芸術」を演出していたのだ。
しいなの動機は愛の執着。伽藍の老いを許せず、死で理想を固定した。トリックは太陽の影の動きで崩れる。館の崩壊と共に、しいなは自滅。奈々未は謎を解き、父の影を継ぐ者として帰路につく。
本格ミステリと心理ホラーの融合。鏡像の迷宮で、愛と狂気の境界が暴かれる。読後、自身の影を振り返るか。