あらすじ
誰の人生にもある「特別ではない一日」を描く、全20話の連作短編です。舞台は日本のどこかの街。登場人物は毎話入れ替わります。
アルバイト店員の朝、喫茶店の午前十時、弁当屋の昼下がり、整骨院の店じまい、病院の待合室、古びた写真店、夜明け前の仕事帰り、等々。同じ空の下で、それぞれの生活が淡々と進みます。
時計の秒針、ラベルの向き、モップの音、洗濯ばさみの位置、紙の匂い。それらが、日常の輪郭をくっきりと立ち上げ、読む人の五感に静かに語り掛けます。
物語の中心にあるのは大事件ではありません。
言いかけて飲み込んだ一言、誰にも見せないため息、ふと胸をよぎる「もしも」。家族への思い、仕事の疲れ、孤独の居場所、恋の空白、年齢への不安、取り戻せない時間への月並みな後悔。
一話ごとは短い時間の切り取りでありながら、読み進めるほど、点在する場面がゆるやかに呼応します。
あなた自身の記憶の引き出しをそっと開け、読み終えたあとに明日を少しだけ丁寧に暮らしたくなってもらえたら嬉しいです。
終わりきらないからこそ続いていく、生活という未完の物語を描きました。