あらすじ
六月十二日の夜、恋人を殺した容疑で逮捕された男は取調室で繰り返し訴えていた――「俺は無実だ」と。
刑事・田中誠の冷たい視線の前で、彼は必死にあの夜の出来事を説明する。確かに口論はした。けれども「距離を置こう」と告げただけで、別れを告げたわけではない。彼女が泣きながら去ったあと、もう一度会うことはなかった。ところがその翌朝、彼女は自宅で遺体となって発見される。防犯カメラには彼の車が映っていた。動かぬ証拠のように見えたそれが、彼を絶望へ突き落とす。
その夜、死んだ彼女は今も覚えている。田中刑事の秘密を知り、彼に「警察に言う」と告げたあの日から、運命は決まっていた。かつて無実の人を訴追するために、田中は証拠を捏造していた――その罪を暴こうとした彼女の前に、田中は暗闇の玄関に現れた。「ごめん」と一言だけ呟き、刃を振り下ろした。彼女は最期まで、恋人の無実を信じていた。
法廷で疲れ切った被告人の前で、証人として立つ田中刑事は堂々と「彼が犯人です」と言い切る。だが、弁護士の提示した新証拠が静寂を切り裂いた。被害者宅から検出されたもう一つの指紋――それは田中のものだった。さらに、防犯映像に映る運転者の体型は被告人ではなく田中に酷似している。凍りつく法廷、崩れ落ちる刑事。手錠がはめられたその瞬間、彼だけが痛いほど理解していた。真実はいつか、必ず光にさらされるということを。