あらすじ

ある事情を抱えて職場に現れた「そのお方」は、かつて身を置いていた場所への怨嗟の声を、来る日も来る日も語り続けていました。  私は仕事として、その声に耳を傾けていました。否定も肯定もせず、ただ聞く。それが私の役目でした。  同情はありました。理解しようともしました。しかし、同じ言葉が繰り返されるたび、私の内側は静かに摩耗していきました。  休みの日に訪れるのは解放感ではなく、身体を支配する疲労でした。やがて心は音もなく壊れ、医師の診断書を手に休職することになります。それでも私は、声の主について何も語りませんでした。  復職後も怨嗟は止まず、ついには身体までもが拒絶を示します。  この場所に留まれば、戻れなくなる。そう悟り、私は仕事を去りました。  数年後、そのお方は元の場所へ戻り、感謝の言葉を残していきます。けれど、聞き続けた者の名は、そこにはありませんでした。

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カクヨム
カクヨム2026/01/02
  • 現在の作品「余白の声」第14話「聞いていた人の話」