あらすじ
その年の五月、ぼくは運動会のことを考えるだけで胸の奥が落ち着かなくなっていた。教室には、誰が作ったのかわからないてるてる坊主が下がり、みんなが晴れを願っている。けれどぼくは、晴れの日の校庭が少しこわかった。放課後、校庭のはずれで一羽の鴉と出会う。嫌われがちな黒い鳥は、速さも順番も気にせず、ただ校庭を見下ろしていた。その視線に導かれるように、ぼくは古い門をくぐり、世界の縁に立つ。水たまりの中で繰り広げられる運動会では、勝ち負けや上手さが水に溶け、形を失っていく。走れなくても、遅れても、そこにいていい。門を戻ったあと、現実は何も変わらない。それでも、ぼくの立つ位置だけが、少し変わっていた。速さから降り、外側から世界を見る日。鴉になる日の物語。