あらすじ
神戸・岡本にあるレトロな洋館、「能勢会計事務所」。
そこは、中小企業の申告から資金繰りまでを面倒見る、町の“総合診療所”だ。
入社1年目の新人・鳥居雅之は、初めて担当したデザイン会社「オフィス櫻井」の決算書に違和感を抱く。売上は減っているのに、なぜか利益は倍増。一見すると「筋肉質な経営」に見えるその数字には、奇妙な歪みが隠されていた。
「……美しくありませんわ。これは合理化ではなく、歪みです」
そう断言するのは、ダージリンを愛する高飛車な先輩税理士・絹延橋みつ子。
彼女は決算書の数字の並びから、経営者の隠された意図や人間関係までをも読み解く「会計探偵」だった。
調査を進める中で浮かび上がる、倒産したはずのクライアントの案件(仕掛品)と、謎の会社への不定期な送金。そして、大阪・本町のオフィスに残された「開かずのファイル」の秘密とは?
冷徹な会計ロジックが、優しすぎる嘘を暴き、やがて会社を再生へと導いていく――。
雨上がりの神戸を舞台に描く、心温まるお仕事ミステリー。
※主要登場人物
• 絹延橋(きぬのべばし) みつ子
31歳。
元上場企業経理の女性税理士。縦ロールの金髪にボルドーのリボンという浮世離れしたお嬢様ルックだが、腕は超一流。「この決算書、美意識が足りなくてよ」が口癖で、数字の整合性に異常な執着を見せる。
• 鳥居 雅之(とりい まさゆき)
29歳。入社1年目の新人。お人好しで素直な性格。みつ子に振り回されながらも、持ち前のフットワークで現場を調査し、真相へと近づいていく。
• 川西 撫子(かわにし なでしこ)
33歳。事務所の司令塔。普段は穏やかでお菓子好きの「仏の撫子」だが、複数の事務所を渡り歩いた叩き上げであり、いざという時は冷徹な実務家「鬼の川西」へと変貌する。
• 櫻井 昭彦(さくらい あきひこ)
45歳。「株式会社オフィス櫻井」の社長。人当たりの良いデザイナーだが、恩人である師匠を救うために、会計上の禁忌を犯してしまう。