あらすじ
西暦一九四五年夏。
日本本土は、連日の空襲によって静かに削られていた。
焼失率、電力停止時間、復旧見込み。
官邸に集まるのは、感情ではなく数字だけである。
勝利の見込みはなく、反撃は先制に見えるため許されない。
誰もが「何も出来ない側」に立たされていた。
首相・吉田功は、決断できない夜を重ねていた。
迎撃は限定的、被害は拡大、国民は疲弊している。
それでも、越えてはならない一線がある。
官邸では、次の大規模・大型空襲を七日から十日の警戒幅で見据え、
被害を抑えるための運用だけが淡々と積み上げられていく。
その一方で、史実には残らない地下会合が存在していた。
極秘に進められていた技術計画。
成功率は四割前後、再現性なし、量産不可。保有数は、わずか二。
反撃の切り札にも、勝利の兵器にもなり得ない、不完全なカード。
反対派リーダー・生筋有喜は、その数字を最も嫌っていた。
ゼロでもなく、一でもなく、「二」であること。
成功と失敗が同じ結果を生む可能性。
彼は反対派でありながら、
今夜の「判断しない」という決定には賛成する。
越えないために、決めない。それが統治の技術だと知っているからだ。
官邸の夜。
食糧不足の中、首相夫人めると、次期首相候補の妻・愛花は、
塩を節約しながらしおむすびを握る。
空爆の報告が飛び交う廊下で、
彼女たちは「一つでもいいので食べて」「武運を」と男たちを送り出す。
政治には口を出さない。
ただ、生活を支え、決断の重さを引き受ける。
本作は、第二次世界大戦末期を史実に沿って描きながら、
やがて静かに分岐する。
英雄は現れない。派手な戦闘描写もない。
あるのは、数字と沈黙。
そして「越えない」と決め続けた国が、
越えざるを得なくなる瞬間である。
これは、勝敗ではなく、判断の物語。