あらすじ
重力調整バイトは禁止されている。
それでも、宇宙工学を学ぶ学生たちのもとには、ときどき妙に条件のいい「夜間作業」の話が回ってくる。
観光用リングステーションで人工重力を微調整する──やることは数字を少し動かすだけ。
危険なはずの仕事は拍子抜けするほど地味で、冗談を言う余裕さえあった。
重力が0.98Gだろうと1.02Gだろうと、ほとんどの人は気づかない。そう、思っていた。
ところが作業が進むにつれ、床に落ちる物の動きや、歩く感覚が微妙におかしくなっていく。
数値では誤差としか言えない揺らぎが、少しずつ身体に触れ始める。
やがて、想定されていなかった事態が起こる。
けれどそれは、大事にはならない。少なくとも、表向きは。
朝になれば重力は元に戻り、観光客は何事もなかったように走り回る。
仕事は終わり、報告書は提出され、世界はいつもどおり続いていく。
ただ、重さの感覚だけが、どこか前と違っていた。