あらすじ

感情を貸し出して生計を立てる――それが、この街の多くの人たちの日常だった。 専業貸与者のエマは毎朝自分の幸福や喜びを切り売りし、返却を待つ日々を送っていた。 薄れていく感情に慣れ、諦めながらも、たった一つだけは守り抜いていた。 十六の夏、夕立の中で触れた、あの甘くて痛い震え。 それを、絶対に手放さないと誓っていた。 だが、ある朝、端末に届いた通知。 「返却不能。恒久移譲済み」 貸してもいないはずのかけがえのない感情が突然消えた。 怒りも悲しみも湧かない。 それらさえ、今は貸し出し中だから。 エマは立ち上がる。 灰色の雨の街を、北地区へ。 感情保管庫のある、誰も近づかない場所へ。 かすかな震えを頼りに、たった一人で。これは失われたものを取り戻そうとする女の物語。 感情が通貨となった世界で人間とは何かを問う、静かなる旅。

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カクヨム
カクヨム2025/12/31
  • 現在の作品感情貸与者