あらすじ

都心から少し離れた、木々の緑が色濃く残る静かな街角。陽の光が窓いっぱいに差し込む古い洋館には、効率化が進む現代社会で「無用」と切り捨てられた記憶や、名もなき文化の破片を拾い集める、奇妙な研究所があった。 所長の日野原は、膨大な教養とウィットを武器に、誰にも顧みられない「生活の断片」を標本化する風変わりな研究者。その助手として働く姪の栞(しおり)は、叔父の浮世離れした言動に現実的なツッコミを入れつつも、銀のピンセットで「かつての日常」を分類する日々に、言葉にできない豊かさを感じていた。そこには、言葉を発さないがプロの矜持を持つ飼い犬のハツも、独自の美学で空間を彩っている。 物語は、徹底した効率主義を信奉する青年・真壁が、研究所の存在意義を問うために現れるところから動き出す。日野原が提示する「かつての街を彩った職人たちの美学」や、日常に潜む「目に見えない手間」の記録に触れるうち、真壁は、自らが追い求めてきた「正解」の影に、人が呼吸するための大切な「余白」が隠されていたことに気づき始める。 一見すると何の役にも立たない「無駄」の中に宿る、人が人を想う祈りのような真心。失われゆく「手触りのある時間」を巡り、三人と一匹が辿り着く、現代を生きる私たちのための生活の考古学。日常の些細な瞬間が愛おしくなる、知的でユーモラスな連作短編。

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小説を読もう2026/01/01
  • 現在の作品日野原生活文化研究所