あらすじ
星が静止した夜、かつての魔王の父・バアルガンドは、宿敵であった「魔王」と「勇者」の魂を一つの赤子に封じ込め、最果ての地へと託した。その名はゼノリス。彼は元帝国書架騎士の夫婦、ロランとミリアに愛され、自らの中に眠る二つの声、「破壊を望む魔王と、慈愛を説く勇者」の相克を感じながら、健やかに育っていく。
三歳の嵐の夜、父ロランが山中で救い出した赤ん坊、フィリーネとの出会いが彼の運命を決定づけた。帝国の正統な血を引く公女である彼女を、ゼノリスは実の妹として、そして何よりも大切な「守るべき宝物」として慈しむ。踏みしめた大地に季節外れの花を咲かせるほどの底知れぬ魔力を秘めた少年と、兄を盲目的に慕い、献身的に支える美しい妹。黄金色の麦畑に囲まれた平穏な日々は、永遠に続くかと思われた。
しかし、世界の均衡は崩れ始めていた。分裂した八星諸国が覇権を争い、禁忌の力を求める影が辺境にも忍び寄る。ゼノリスが十五歳を迎えた頃、中立都市エテルナの魔法学院から、彼のもとへ逃れようのない「強制選抜状」が届く。彼の異質な力はもはや隠し通せず、またフィリーネの出自を狙う不穏な動きも加速していた。
「俺が、お前の居場所を守り抜く。そのためなら、世界さえ変えてみせる」
師匠バアルガンドから課された過酷な修行を乗り越え、ゼノリスは決意する。愛する妹を救い、分断された大陸を再び一つに束ねる「真の皇帝」としての道を。家族の深い愛を背に受け、ゼノリスは最果ての村を旅立つ。それは、二つの心を宿す少年が、星に導かれるままに偽りの平穏を突き破り、真実を穿つ壮大な物語の始まりだった。