あらすじ
2025年、東京。路地裏の湿った暗がりに、看板のない店が一軒だけ灯りをともしている。
店名は『Le Menteur(ル・マンター=嘘つき)』。
店主の一ノ瀬 湊(いちのせ みなと)は、類稀なる美貌と引き換えに、ある特異な体質を抱えていた。彼は「他人の嘘」を触媒にしたショコラでしか、味を感じることができない味覚障害者なのだ。彼が創り出すのは、食べた者の言葉を審判する魔法のショコラ。
ルールはたった一つ。
そのチョコを食べた後、真実を語れば「至上の甘露」が、嘘をつけば「地獄の汚泥」が口内にあふれ出す。
店を訪れるのは、虚飾のSNS社会で窒息寸前の現代人たち。
「正義」という名の猛毒を撒き散らすインフルエンサー、家庭内で完璧な幸福を演じ続ける妻、AIにESを書かせ続ける就活生……。彼らは湊のショコラによって、自らついた嘘の「味」に悶え苦しみ、やがて隠していた醜い本音と対峙する。
冷徹に見える湊が探しているのは、かつて失った独自の味覚を取り戻すための、世界でただ一つの「透明な嘘」。
毒を以て毒を制す。甘くて苦い、ショコラ・ミステリー開幕。