あらすじ

警視庁が発表した令和5年の遺失物届出件数は、約440万件。過去最多を更新した。 単純計算で、東京都民の3人に1人が、1年の間に何かを「落として」いることになる。 なぜ、こんなにも物が増えたのか。 景気が良くなったわけではない。むしろ逆だ。 人々は貧しくなり、心に余裕をなくし、そして何より――耳を塞いでいるからだ。 街を行く人間の半数は、耳に白い異物をねじ込んでいる。 高性能ノイズキャンセリング機能付きワイヤレスイヤホン。 彼らは、自分だけのBGMに浸り、外界の不快な雑音をシャットアウトすることで、精神の安定を保っている。電車の走行音も、他人の舌打ちも、そして――自分のポケットからスマホが滑り落ちて、アスファルトを叩く硬質な衝撃音さえも、彼らの耳には届かない。 「カタン」 乾いた音がしても、誰も振り返らない。 世界はこんなにも騒がしいのに、彼らにとっては無音の映画だ。 だから、私は拾う。 誰にも気づかれることなく、所有権が放棄されたその瞬間の「富」を。 これは窃盗ではない。正当な再分配だ。

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小説を読もう2025/12/18
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