あらすじ
高校生の翔太は、自分を「普通」の代名詞だと思っている。名前も、身長も、体重もすべてが平均値。それは、何をやっても完璧な兄に対する劣等感から、傷つかないために選び取った処世術だった。かつては父の影響で昆虫に夢中になり、新種の発見を夢見ていた翔太だったが、周囲の目や兄との比較の中で、その情熱を「普通じゃない」として封印していた。
ある夜、翔太はリビングで一冊の大学ノートを見つける。そこには「親の期待が重い」「本当は絵本を作りたい」という、完璧な兄らしからぬ弱音と夢が綴られていた。兄でさえ迷い、夢を持っていたことを知り、翔太の心に変化が訪れる。「兄が特別でないなら、僕が普通でいる理由なんてない」。
衝動に突き動かされた翔太は、進路調査票に「琉球大学で昆虫学者になる」という本来の夢を書き込む。沖縄の森にしかいない憧れの甲虫・ヤンバルテナガコガネに会うために。
しかし、兄にノートの件を打ち明けたとき、意外な事実が判明する。そのノートは兄のものではなく、亡き父が若き日に遺したものだったのだ。父の言葉に背中を押され、再び夢を追い始めた翔太を、母と兄は「お前は昔から普通なんかじゃなかった」と温かく肯定する。
ヤンバルの森への切符を手にした少年が、自らの殻を破り、未来へと羽ばたく青春ストーリー。