あらすじ
ひとりだと思っていた。
理由はわからない。ただ、そう感じていた。
誰かがそばにいるはずの場所で、いつも心だけが少し遠くにあった。
優しい声。
あたたかい手。
名前を呼ばれる安心感。
どれも確かにここにあるのに、胸の奥だけが、かすかに冷えていた。
ーーーどうしてだろう。
エリシアは幼い頃から、その問いを持って生きてきた。
夜になると、時々、理由のわからない不安に包まれる。
何かを失ってしまう予感。
誰かがいなくなる気配。
けれど、思い出そうとすると、霧の向こうに溶けてしまう。
形のない怖さだけが残って、名前も理由も見つからない。
だからエリシアは、それを「気のせい」だと片づけた。
ーーー私は、幸せだもの。
優しい両親がいて、知的で頼れる兄がいて、
不自由のない暮らしがあって、
そして、生まれつき少しだけ魔力が強い。
恵まれている。
間違いなく。
なのに、心のどこかで、
「ひとりになってしまう」 という恐怖感だけが、消えなかった。
ある日、傷付き瀕死の状態の妖精の少女と出会い、治癒魔法を目覚めさせた。
けれど、このとき確かに起きていたのは、
傷を塞ぐことや痛みを消すことだけではなかった。
エリシアは、まだ気づいていない。
この小さな妖精が、
この出会いが、
そしてこの「そばにいる」という行為そのものが、
——忘れていた自分自身へ、
手を伸ばす第一歩だったことを。