あらすじ
「俺の人生は空っぽだった。だから、お前たちの幸せで満たすしかなかったんだ」
時は昭和五十四年。
「人斬り鋭二」と恐れられる武闘派ヤクザ・鬼島(きじま)鋭二(えいじ)には、誰にも言えない秘密があった。
背中に彫り込まれた「般若」の刺青。それが、返り血を浴びるたびに熱を持ち、殺した相手の「記憶」を吸い上げるのだ。
被害者が持っていた、ささやかな家庭の温もり。愛する娘の笑顔。未来への希望。
ドスを振るうたび、鬼島の脳内に「他人の幸福な人生」が流れ込み、彼自身の自我を塗りつぶしていく。
やがて般若の面が、慈愛に満ちた「菩薩」へと相を変えるとき――
鬼島を待ち受けているのは、救済か、それとも永遠の地獄か。
記憶に食い荒らされた男の、哀しくも恐ろしい末路を描く、全二話の短編ノワールホラー。
『緋色の嗤い』、『墨魂の夜』で描いた鬼島鋭二という男の、別の人生を描いた物語。
【作者コメント】
昭和の裏社会を舞台にした、少し不思議で物悲しい怪談を書きました。
ただ怖いだけでなく、 「殺した相手の幸せな記憶に侵食されていく」 という、アイデンティティの崩壊と、ある種の救いをテーマにしています。
全2話完結の短編ですので、隙間時間に楽しんでいただければ幸いです。 読後の感想やスターをいただけると励みになります。