あらすじ

三月。東京が少しずつ、残酷なまでの春の熱気に包まれ始める頃。 仕事に追われる日々の中で季節を失っていた会社員・桜井美咲は、アパートの隣室に住む不思議な青年・白川柊と出会う。 彼は、雪の降る日にしか現れない「ユキヒト」と呼ばれる種族だった。 人々の心に溜まった孤独や悲しみを「冬の澱(おり)」として吸い取り、浄化して北へ還る存在。 彼が首元に巻いた不自然に分厚い白いマフラーは、その存在をこの世に繋ぎ止めるための、あまりに脆い封印だった。 「十五度を超えたら、僕は形を保てなくなります。……そして、僕のいた記憶は、すべて世界から消去される」 春が近づくにつれ、少しずつ透き通っていく彼の体。 彼を愛おしく想うほど、美咲の体温は彼を溶かす毒となり、別れのカウントダウンを早めていく。 「たとえ明日、あなたの名前を思い出せなくなっても。私は、あなたの冬を覚えているから」 これは、誰の記憶にも残らないはずだった一人の青年と、彼に孤独を救われた一人の女性が過ごした、一ヶ月間の切実な記録。 満開の桜の下、最後の一片が舞い落ちる時。 世界から「白川柊」という存在が消えたあとに、美咲が手にしたものとは――。 冬の終わりに、一番優しくて、一番切ない「さよなら」の物語。

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カクヨム
カクヨム2025/12/25
  • 現在の作品三月のユキヒトは、春の風に溶ける