あらすじ
何事もない。
だから今日も、笑っていればいい。――そういう顔を、学校は要求してくる。
目立たない。騒がない。会話は普通に成立する。
その“普通”がいちばん厄介だ。誰も気づけない。気づこうともしない。
沈黙の奥で痛みが増えていっても、日常は何事もなかったように続く。
放課後。整いすぎた部屋。紙の匂い。規則の空気。
そこに立つ同級生は、優しい言葉を持っていない。
慰めない。励まさない。共感もしない。
代わりに、視線だけが異常に正確だ。崩れる前の違和感を、容赦なく拾い上げる。
見せない者と、見抜く者。
触れないふりをして、触れてしまう。
言葉にならない痛みのそばで、沈黙は少しずつ形を変える。
それが恋になるまでの物語。
『点描』――小さな違和感が、世界の輪郭を崩していく。