あらすじ
仕事帰りに男はカフェへ入る。温かい室内、漂うコーヒーの香り。だが何も感じない。苦い、熱い、香る——それだけ。楽しげな笑い声も遠くから聞こえるだけで、自分には届かない。何のためにここへ来たのかもわからず、ただ「コーヒーを飲む」という行為を繰り返す。翌日も同じカフェで、同じ席に座り、同じコーヒーを飲む。何も変わらない日々。やがて「いつものですね」と言われても、そこに喜びはない。すべては習慣であり、何も得られないまま時間だけが過ぎていく。意味を考えることすらも諦め、同じ行為をただ機械のように続けていた。
――場面は変わり、明るい声が響く。
「よっしゃカフェタイム!」
男は同じカフェのドアを元気よく開ける。窓際の席に座り、コーヒーを頼み、香りに顔をほころばせる。ひと口飲んでは「んまああああい!」と叫び、周囲の視線にも笑って応える。店員の笑顔、日の光、湯気。すべてが彼女にとって小さな幸せの連なりだった。毎日カフェに通い、店員に顔を覚えられると喜び、会話を交わしてまた幸せを噛みしめる。彼にとってそれは「同じ」ではなく、「今日も幸せだ」と実感できる時間だった。沈黙の男と、笑顔の男。
同じカフェ、同じコーヒー、同じ時間に違う人生が流れている。ある者にとっては習慣であり、ある者にとっては幸福。けれど、二人はどこかで同じ答えを探している。——「今日も、生きている」。