あらすじ
官庁街の外れ、地下鉄通路の掲示板に「料理、手伝える人」と手書きの紙が貼られる。通りがかった菜々は、応募条件を満たしていないのに勢いで面接へ行き、「できます」と言ってしまう。
配属先は〈易象解読庁〉の新設部署「最期の晩餐係」。案内役の颯汰に連れられて入ったのは、白一色の食堂――“最後に食べたい一皿”を語った人だけが席に着ける〈白い晩餐室〉だった。語りが終わると、部屋は静かに閉じ、語り手は現実から消える。壁に埋め込まれた「ゴールドホワイトクリスタル」は、その記憶を栄養に育つと分かる。
消失を止めるには、結晶を成熟させて晩餐室そのものを閉じるしかない。菜々は社食の鍋を回し、颯汰は稟議書より先に聞き取りを積み上げ、捺樹は数式ではなく自分の言葉で席を整える。受付の真友輝、現場の鐘平、聞き取りの映も、それぞれの“最後に食べたい味”を持ち寄り、白い卓を満たしていく。
やがて晩餐室の中心に、白いシェフ帽の影が立つ。「愛は育てるほど痛いだろう?」と嗤う影に、菜々は震える手でお椀を差し出し、「痛いから、続ける」と答える。嘘から始まった採用は、嘘で終わらせない――“育てた愛の献立”が結晶を灯りへ変え、晩餐室は静かに閉じる。翌朝、社食の入口に新しい紙が貼られる。「料理、手伝える人。来られる日に来て」――消えかけた明日を、湯気の匂いがつなぎ直す。