あらすじ
札幌、京都、東京――全国を揺るがした「死に花事件」の終結から数週間。
報告屋・鐚一文《びたいちもん》と、助手の少女・銭屋泡《ぜにやあぶく》は、東京の事務所で次なる「世界の歪み」を観測していた。
巷を騒がせているのは、SNSの縦画面動画から現れた正体不明の青年。
物理法則を無視し、落下する命を「音もなく」救い上げるその姿に、大衆は熱狂し、彼を“ヒーロー”と呼び始める。
しかし、その奇跡には常に不穏な影が付きまとっていた。
幹線道路で起きた多重衝突事故。青年は炎の中から一人の女性を劇的に救出するが、その傍らでは三人の命が無惨に失われていた。
「救われた命」の輝きに目を焼かれる大衆と、その裏で「取りこぼされた命」の沈黙を聴く泡。
一文のもとに届いた依頼は、この救世主への「実態調査レポート」だった。
「命が、すとんって戻ってきてる感じ。重たいはずなのに、音がしない」
泡が漏らした違和感は、やがて世界が直面する残酷な「帳尻合わせ」の予兆となる。
称賛という名のメッキに塗り固められたヒーローの実態を暴くため、報告屋リッチマンが再び動き出す。
それは、救済が憎悪へと反転する、最も「安っぽい(チープ)」悲劇の記録であった。