あらすじ

それは、最初から「危機」ではなかった。 アフリカの医療施設で起きている暴力的なトラブルは、暴動でも感染症でもなく、新しい薬物か、精神疾患による錯乱だと説明されていた。国際ニュースの片隅で消費され、日本の官邸でも「参考情報」として一度確認されるだけの話だった。 内閣官房で危機管理を担当する参事官・三浦 恒一の仕事は、それらの情報を「今は扱わない」と整理することだった。国内への影響はなく、邦人被害もない。そう書ける限り、事態は官邸にとって存在しない。 だが、日本の日常に、少しずつ似た報告が混ざり始める。病院で暴れる患者、押さえが効かない被疑者、理由の分からない興奮状態。どれも単体では説明がつく。どれも、危機とは呼べない。 ゾンビという言葉も、未知の感染症という認識も、この世界にはない。あるのは、既存の言葉で無理に整理される現象だけだ。 それでも人は動き、国境は意味を失い、説明できない事態は静かに広がっていく。官邸が「名前」を与える頃には、すでに取り返しがつかなくなっている。 これは、怪物の物語ではない。 危機を危機と呼べなかった人間たちの物語である

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2025/12/20
  • 現在の作品未定義感染