あらすじ
空は重厚な煤煙に閉ざされ、太陽さえも「永遠の薄暮(トワイライト・スモッグ)」へと変える蒸気都市ネオ・ロンドニウム。巨大なプロメテウス・エンジンの鼓動が鳴り響くこの街で、一際異彩を放つ場所があった。――アッシュウォーカー探偵事務所である。
彼女は、自らを「天才」と称して憚らない美少女探偵ロイス。真鍮の胸甲を纏い、機械式単眼をカチカチと鳴らす彼女は、圧倒的な楽天主義と華麗な推理で闇を照らす。その傍らには、彼女の兄であり、冷徹な論理で「解体」を行う天才技師ジェミニが、制御弁のように控えていた。
平穏(あるいは騒がしい日常)を破ったのは、権威ある発明家の元から盗まれた記憶という奇妙な依頼。調査を進める二人の前に現れたのは、都市の呼吸に混じり、機械と人を侵食する漆黒の粒子『黒い残滓』だった。
事件が深まるにつれ、常に手袋で隠されたロイスの左腕――十年前の未解決事件『灰色の朝』で残滓に侵された皮膚が、何かに導かれるように脈打ち始める。それは彼女のトラウマの象徴でありながら、世界の嘘を感知する唯一の「デバイス」でもあった。
ジェミニが愛猫ススを使ってロイスに強いる「沈黙のルール」の中、研ぎ澄まされた感覚が捉えるのは、都市の歯車に隠された血塗られた設計図。なぜ一秒は失われたのか。ロイスの左腕が叫ぶ「真実」とは。
灰の積もる世界を歩む者たち(アッシュウォーカー)が、レンチと知性を武器に、支配と欺瞞に満ちた都市の皮を一枚ずつ剥いでいく。
「コグ・イエス!(Cog Yes!)これこそが、私、アッシュウォーカー印の正義よ!」
華やかな静寂と冷徹な騒音が交錯する、超弩級スチームパンク・ミステリー。