あらすじ
高い場所から遠くを見るのが好きな少女は、まだ槍も弓も持たず、ただ風の音に耳を澄ませていた。
ある日、彼女は異変に気づき、必死に走って知らせようとする。だが息は切れ、声は届かず、彼女の目に映ったのは、遠くで燃える景色だけだった。
生き残った彼女は学ぶ。
走れば間に合うとは限らない。
近づけば守れるとも限らない。
それ以来、彼女は走らず、先に立つことを選ぶ。
距離を保ち、風を読み、弓で届かせ、短槍で近づかせない――
その戦い方は、やがて風走り隊の思想と重なり、彼女は隊に加わる。
異端の装備と走らない動き。だが判断は早く、確実だった。
戦場で誰かが何気なく呼んだ名が、いつしか定着する。
「遠くから、風のように戦う者」――遠風。
正しい判断を重ねながらも、彼女は気づいていく。
判断が正しくても、救えないものがあること。
風走りは判断を共有する隊であり、彼女は判断を独りで完結させる人間であることを。
最後の戦いのあと、誰にも責められることなく、彼女は隊を離れる。
走らず、名を訂正することもなく。
こうして本名は風の中に消え、
「遠風」という呼び名だけが、戦場に残った。
それは、彼女が一人で立つことを選んだ証だった。