あらすじ
祖父の葬儀のため、山深い故郷の村を訪れた寿一は、雨の夜、山の稜線を怪しく走る「狐火」の列を目撃する。
「狐火が遠くに見える時は、狐は既に足元にいる」という祖父の遺言をよそに、その美しさに魅了された寿一は、カメラを手に山道へと分け入る。そこで彼は、狐化粧を施した不気味な男女の行列と、その最後尾を歩く白無垢姿の花嫁に遭遇し、一時的に意識を失う。
翌朝、泥まみれで発見された寿一が、昨夜撮影したカメラの画像を確認すると、そこには火の玉ではなく、自分を包囲する数千の赤い眼と、寿一の肩越しにレンズを覗き込む花嫁の白い袖が写り込んでいた。
恐怖に震える彼の前に、村の忌み者である老人・骸斎(むくろじ)が現れる。老人は、あの行列は生贄となった娘たちの成れの果てであり、魂を抜かれぬためには拳を固く握り、狐の鳴き真似をして人間であることを隠し続けねばならないと説く。
しかし、その教えさえも狐の仕掛けた罠であった。寿一が必死に拳を握りしめている間に、彼の人間としての魂は窒息し、肉体は急速に異形へと変質していく。
やがて再び雨が降る夜、寿一は自ら漆黒の紋付袴を纏い、「狐の花婿」として行列の最後尾に立つ。
かつて人間であったものたちの鳴き声に包まれながら、寿一は新たな犠牲者を求めて、音もなく闇の向こうへと消えていくのだった。