あらすじ
おれはまともな人間だ。正真正銘、精神も肉体も健康そのもの。ちゃんと野菜も食べるし、酒もほどほどにする。ごく普通の家庭で育ち、安月給でも真面目に働いていた。
――そして、人を殺した。
夜道で、ただ歩いていただけの男を包丁で刺し殺した。いわゆる通り魔だ。理由は特にない。考えてもよくわからない。ただ、日々の生活の底に澱のようにへばりついた不満が、じくじくと胸の内側を蝕み、この先もこんな日が続くのだと思った瞬間、何かがプツリと切れた。
何もかもどうでもよくなって、ただ幸せそうな人間を見ただけで、胸の奥が焼けるように苛立った。
おれが殺した男がそうであったかどうかは知らない。だが、どうでもよかった。
それより今、おれが奇妙に思っているのは、人を殺し、警察に捕まったおれがなぜか無罪になったことだ。