あらすじ

十四時五十五分。最終面接を待つ「僕」は、椅子の上で静かに息を整えていた。スーツは整い、志望動機も完璧。半年前から願い続けたIT企業の内定を、いま確実に手にしようとしている。時計の針が進むたびに、胸の鼓動が高鳴る。 ――第一章、陽の僕。  面接室に入り、三人の役員を前に堂々とした声で話す。 「テクノロジーで社会を変えたい」 「三年後にはリーダーになりたい」  準備してきた言葉が滑らかに口をつき、役員たちがうなずく。会話の一つ一つに手応えを感じ、終わった瞬間、確信する。勝った。ここまでの努力が報われたのだ。青空の下、スマホに「手応えあり!」と打ち込み、友人に笑顔で報告する。 未来は明るい。成功の確信が、空のように澄み渡っていた。 ――だが、もうひとつの「僕」も同じ時間、同じ場所にいた。手のひらは汗で濡れ、言葉は喉に詰まる。一次面接からずっと、何一つ思い通りに答えられなかった。それでも、不思議とここまで進んでしまった。  十四時五十八分。呼ばれた瞬間、膝が震える。 「志望動機を教えてください」  質問が投げられ、脳が真っ白になる。 「御社の……その……」   途切れる言葉。  優しい「落ち着いてください」の声が、かえって苦しくなる。努力を語ることも、夢を語ることもできない。黙り込む沈黙が、秒針の音に掻き消される。  涙をこらえながら部屋を出たとき、雨音が街に降り始めていた。同じ会社、同じ時刻、同じ最終面接を受けた二人の田中陸。一人は自分を信じ、もう一人は自分を信じられなかった。  拍手を待つ口の裏で、沈黙に沈む声があった。 成功と失敗の境は紙一重。ほんの少しの自信と恐怖が、同じ午後の光と影を分けた。

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エブリスタ
エブリスタ2025/12/17
  • 現在の作品最終面接、あと5分