あらすじ

七月の午後、照りつける陽射しの下を歩きながら、遺品整理人の「私」は、今日でこの仕事を辞めようと決めていた。三年間、他人の死と向き合い続け、心が磨耗していたからだ。依頼は、孤独死した老人の部屋の片付け。六畳一間の空気には、消臭剤と諦めのような静けさが混じっていた。  作業の途中、押し入れの奥から一通の封筒を見つける。「未来の自分へ」と書かれた茶封筒。十五歳の少年が三十歳の自分に宛てて綴った手紙には、「誰かの役に立つ人間になりたい」という真っ直ぐな願いが書かれていた。七十五歳で孤独に亡くなった男の姿との落差に、私は胸を締めつけられる。夢は叶わぬまま終わった――そう思い込み、誰にも渡さず封筒を鞄にしまう。それが第一章。沈黙と虚無、諦念に沈む陰キャ版の語り。世界は冷たく、人生は報われないものとして描かれる。  そして第二章。設定はほとんど同じだが、陽キャ版の「私」は少しだけ違う選択をする。封筒を依頼主の姪に手渡したのだ。彼女は読み、涙ながらに語る。――叔父は小学校教師として、子供たちに未来を教え続けた人だった、と。  その瞬間、私は悟る。老人の願いは、確かに叶っていた。目立つ足跡は残さずとも、誰かの中で生き続けていたのだ。孤独死という結末だけでは、人の生を測れない。同じ出来事を別の心で見つめる二つの章。  一方は絶望に幕を下ろし、もう一方は静かな希望で終わる。「私」は死を片付ける仕事人から、人生の証を見届ける者へと変わってゆく。夜が来て、また朝が来る。それでもこの仕事を続けよう――そう小さく呟きながら、私は再び歩き出す。

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エブリスタ2025/12/16
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