あらすじ
女子大生のミナは、世界を「超解像度」で捉える感覚過敏の持ち主だ。彼女の視界において、キャンパスの新緑は蛍光色に輝き、友人の声は音波の塊として認識される。彼女は「ポップコーンガール」として、次々と興味の対象を変え、SNSの通知と刹那的な快楽(ドーパミン)を燃料に生きている。ガラス細工、マッチングアプリの男・ケンジとのデート。すべては消費されるコンテンツであり、飽きれば即座に切り捨てられる。彼女には「過去」や「意味」といった重力は存在しないかのように振る舞うが、そのバッグの底には、覚えのない「古文の参考書」や、震える文字で書かれた「時間を返して」というメモが紛れ込んでいた。それは、彼女が切り捨てた記憶の残骸であり、不穏な影の予兆だった。
一方、ミナの精神の深層には、もう一人の人格「私」が存在している。そこは光の届かない、絶対零度の深海だ。「私」は常にうずくまり、上空(海面)から降り注ぐ「マリンスノー」に埋もれている。そのマリンスノーの正体は、表層のミナが消費し、排泄した感情のゴミだ。ミナが食べたスイーツの甘さは腐ったヘドロとなり、ミナが男を無神経に振った時の罪悪感は鉛の重りとなって「私」を押し潰す。「私」はかつて塾のチューターとして、悩める浪人生たちと静かな共感の時間を過ごしていたが、その記憶すらもミナによって「不要なもの」として廃棄されようとしていた。「私」は水圧に耐えながら、ミナへの憎悪と、同一人物であることの逃れられない絶望に震えている。
ある夜、新宿の雑踏で情報の洪水に溺れたミナは、唐突に「スイッチ」が切れ、意識を失う。表層と深層が激しく揺らぐ中、ミナ(統合されつつある意識)は大学の研究棟の屋上で、飛び降り自殺を図ろうとする一人の女性を発見する。その女性は、弟の受験失敗と家庭崩壊に疲れ果てていた。
その瞬間、ミナの中で二つの人格が同時に覚醒する。「ネタになる」と笑う残酷な白(躁)と、「痛みがわかる」と共鳴する青(鬱)。相反するはずの二つの衝動が、脳内で不協和音を奏でながらスパークする。
ミナはフェンス越しに女性の手を掴む。「キャハハ! 空飛ぶ人間!」と笑いながら、「死なせるな! 命は重いんだ!」と泣き叫ぶ。その姿は救世主というよりは、混沌そのものだった。白の爆発的な行動力と、青の底知れぬ執着心が融合し、ミナは女性を強引に引きずり戻す。