あらすじ
戦場には、二種類の人間がいる。
名を残す者と、名を残さずに生き残る者だ。
本作の主人公は、後者である。
彼は盾を持たず、重装もしない。
短槍と数本の投げ槍だけを携え、
正面から勝とうとはせず、
距離と速度だけで戦場を横切る。
敵を倒すより、近づけない。
勝つより、死なない。
そして、武器は投げ、回収し、使い切る。
やがて彼の周囲には、
同じ速度で走れる者だけが残り、
「風走り」と呼ばれる一団が生まれる。
だが彼らは、
どの戦にも勝者として記録されない。
英雄を倒さず、
軍を壊さず、
ただ戦争の“形”を歪めていく。
名を欲しがる者は去り、
名を持たぬ戦い方だけが残る。
物語は、
彼に救われた一人の兵士の視点から始まり、
やがて問いへと変わる。
――勝たない戦いに、意味はあるのか。
最後まで、主人公は名を名乗らない。
だが彼の戦い方は、
誰かの中に、確かに残る。
これは、
英雄譚ではない。
生き残ることを選び続けた、風の記録である。