あらすじ
侍とは、咲くことを知らずに散る花か。
下っ端侍の桐原 伊織は、偉大すぎる父の影に溺れ、「どうせ僕は『徒(むな)しい桜』だ」と嘆く毎日。剣の腕は並々、お役目は町のゴミ溜め見回り、そして何より侍として一番ダメなこと——人が死ぬのが怖くてたまらない。
そんな彼の唯一の楽しみは、戦国の世を忘れさせてくれる変わり者ばかりの町人たちとの交流。ケチで口うるさい茶屋の老婆、刀より鍬が似合う農民の大男、侍を徹底的に避ける謎の薬売り…。彼らとの何気ない日常が、伊織の「徒」な心に、ほんの少しずつ色を添えていく。
しかし、戦乱の狼煙がこの小さな町にも迫る時、伊織は迫りくる運命と、守りたい日常の狭間で立ちすくむ。
“立派に散れ”という父の教えか、“咲き続けろ”という町人の声か——。
これは、ひとりの『徒な侍』が、“死ぬために生きる”のか、“生きるために戦う”のかを探す、涙と笑いの剣戟群像劇。