あらすじ
久遠 永遠(くおん とわ)35歳。
自分で言うのも何だが、俺は不幸な人生を歩んでいると思う。高校1年生の冬にとある事故がきっかけで記憶を無くし、天涯孤独の身となった。
記憶喪失にいじめに何をやっても失敗する現実。そんな現実は俺にとって辛すぎた。
『生きたい』
『死にたくない』
そんな気持ちよりも辛いという感情が勝ってしまった。だから俺は電車が迫るホームに身を投げだした――はずだった。
「可愛そうな魂ですね。私が救済してあげましょう」
可憐でありながら凛とした声。その声が聞こえたと思えば、俺は冷たく硬いコンクリートの上に膝をついていた。
【救済の女神ノラ】
彼女は自身は女神だと言った。可哀想で哀れな魂を救うために顕現したとも。そしてそのまま鈴のように綺麗な声で俺に甘い甘い言葉を囁く。
「これによって生じる影響は簡単です。過去への回帰、たったそれだけです」
回帰。それも20年前に戻ると女神ノラは言った。
「20年前って言うと……15歳。つまりは事故の前、まだ母さん達が生きている頃じゃないか! 断る理由はない! すぐにやってくれ!」
「そうですか。まだ説明はあるのですが――」
「良いから早くしてくれ!」
「……分かりました」
俺はその甘い蜜に飛びついた。甘すぎる話には罠があるなんて常識なのだが、この時の俺にはそんな事を考える余裕はなかったのだ。
『異世界への回帰ですが。頑張って戻ってきて下さいね』
闇に消える意識の遠くで、女神ノラのその言葉だけが聞こえたのだった。
——Ⅴ——
※当作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。