あらすじ

母の死をきっかけに、私は「繭」を見るようになった。光を帯びた半透明の球体。それは、人が抱える深い後悔の記憶を閉じ込める殻だった。繭の中では、もしもあの時という瞬間が永遠に繰り返され、本人は抜け出せなくなる。私は三年間、この繭に囚われた人々を救い出す役目を負ってきた。  ある日、夫に連れられた女性、桐谷沙織の周りに繭が張られていた。覗き込むと、息子を乗せた車で交差点に進入し、トラックと衝突する場面が何度も繰り返されている。沙織はその事故で息子を亡くし、自らを責め続けていた。私は繭に入り込み、彼女に呼びかけた。「あなたのせいじゃない。息子さんは、そんな苦しみを望んでいない」と。涙とともに沙織は頷き、記憶のループは終わった。  しかし次の依頼で、私は恐ろしい繭と出会う。田中誠という男の繭は灰色に濁り、巨大に膨れ上がっていた。彼は会社での誤った決断が多くの死を招いた記憶を、何千回も繰り返していた。私は繭の中に入り、彼を救おうとしたが、やがて自らもループに呑まれていく。記憶の中に「もう一人の私」が現れ、私を模して田中に同じ問いを繰り返す。終わりのない迷路の中で、私は悟った。彼を救うのではなく、彼自身に認めてもらうしかないのだ。「承認しません」と田中誠が告げた瞬間、世界が崩壊した。気づけば私は書斎に倒れており、田中は息をしていた。  すべてが終わったと思った時、私の周囲に薄い膜が生まれていた。繭——今度は、私自身の。過去の後悔、閉じ込められた恐怖、誰にも救えないという絶望が、静かに私を包み始めていた。

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エブリスタ
エブリスタ2025/12/14
  • 現在の作品記憶の繭